さて、今回は富士見ミステリー文庫作品を読んだ感想です。
富士見ミステリー文庫の創刊ラインナップの一つ、夏緑「理央の科学捜査ファイル」シリーズを今回は読んでみました。
静寂の森の殺人
著者:夏 緑
イラスト:船戸 明里
文庫:富士見ミステリー文庫
出版社:富士見書房
発売日:2000/11
ある人物との出会いによって、運命ががらりとかわってしまうことがある。それが殺人犯との出会いだったとしたら?
檜山理央は中学2年。クラブ活動で山へ行ったときに、彼女はキツネの糞の中にピアスを見つける。胸騒ぎを感じた理央は、桐生冬樹のもとにそのピアスを持ち込んだ。
超美形だが、死体に異常な興味を示すと評判の医大生・冬樹。彼の分析から、ピアスには重要な謎が隠されていることが判明する。死体も犯人も静寂の中に潜み、次第に理央を包み込んでゆく…。理系トリックを駆使した本格ミステリー。
タイトルに科学捜査とありますが、ドラマ「科捜研の女」のような科学捜査ではありません。大学生が血液を検査するレベルです。警察組織が舞台ではないので、このあたりは仕方がありません。狐の糞がどうとか、植物の植生についてやけに詳しく書かれていたりと、若干理屈っぽい印象です。
推理小説としては、登場人物が少ないので犯人は想像しやすいです。ただこの作品はサスペンス色が強くて、主人公の女子中学生・理央の行動や追い込まれていくところが読みどころだと思います。ちょっとエグい描写もあって、読んでいてヒェ~と思ったりもしました。いっちょかみな主人公・理央のキャラがユニークで続きも読みたくなります。
また、トリックではないのですが、犯人の行動を知るために音声から辿っていくアイデアが面白いなと。
ミステリ好きに酷評された富士見ミステリー文庫の創刊ラインナップのひとつですが、ミステリとしてはなかなか良くできているんじゃないかと思います。
赤い部屋の殺意
著者:夏 緑
イラスト:船戸 明里
文庫:富士見ミステリー文庫
出版社:富士見書房
発売日:2001/05
一見何気無い出来事が深層心理に影響を及ぼし、自分でも気付かないうちに精神や行動を支配してしまう事がある。それが殺意の衝動である事すら…。
中学1年生の桧山理央は、親友に頼まれてTV番組の取材班に同行する事になった。取材の目的は、18年前に猟奇殺人が起こった山奥の洋館にまつわる謎を解明する事だった。
惨劇の館に近づく者には、恐ろしい運命が待ち受けている。呪われた絵が見守る赤い部屋で、二重の密室状態の中、取材班の一人が不可解な死を遂げた。そして、更に新たなる犠牲者が―!緊迫の理系本格ミステリー、第2弾登場。
前作より推理小説っぽくなった印象です。作中で使われる”開かれた密室”なんてフレーズがいいです。ただ、犯行が偶然の要素が強いのがイマイチなところでしょうか。テレビで県警本部の警視と素人探偵がそれぞれ犯行方法を披露するというのが、実際はありえないけど見せ場としては面白かったです。
キャラクター小説として理央は面白いのですが、名探偵役の大学生にいまいち共感できなくて。美形で、過去を引きずっていて、なんかはっきりしなくて、もどかしいというか。名探偵は颯爽と謎を解いてほしいものです。
そして私が消えてゆく
著者:夏 緑
イラスト:船戸 明里
文庫:富士見ミステリー文庫
出版社:富士見書房
発売日:2002/05
「桐生さんが殺人犯!?」
中学校の屋上に理央の叫び声が響き渡った。目の前で、兄と慕う桐生が錦織警視によって手錠をかけられ、連行されてゆく。理央は二人の後ろ姿を、信じられない思いで見つめていた。
理科の実験助手として中学校に招かれた理大生・桐生。天真爛漫な理央と関わることで、過去の悲しみを乗り越えようとしていた矢先、彼は殺人犯として捕まってしまう。憔悴する桐生を救うべく、理央は大胆な行動に出る。わが身に迫る魔の手に気づかないまま―。
理央の切ない想いは、桐生の頑なな心に届くのか?理系本格ミステリー感動の完結編。
シリーズ最終巻になりますが、3作中で一番面白く読めました。中学校の女子陸上部をめぐる物語で、キャラクターの身の丈にあった話というか、前作よりリアリティのある話です。大会メンバー選出をめぐるドロドロやコーチの行動など、いかにもありそうな感じがします。
前作から登場の錦織警視が大活躍で、こっちのキャラのほうが名探偵役の大学生より魅力的かと思います。名探偵役の大学生は訳わからないし、濡れ衣を着せられ、それを認めるあたり、自己陶酔かよと思ってしまいます。
まとめ
以上、各巻の感想でした。
シリーズ通して理央というキャラクターは良いのですが、名探偵役がイマイチだった印象です。ずっと過去を引きずっているため、颯爽としたイメージがなくて残念な感じ。あと、理屈っぽい印象でしょうか。
決してミステリとして不出来なわけではないのですが、ちょっと魅力にかけるといったところでした。