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【富士見ミステリー文庫を読む】田村純一『天知未来がいる街』 全3巻を読む

さて、今回は富士見ミステリー文庫作品を読んだ感想です。

富士見ミステリー文庫の創刊ラインナップの一つ、田村純一の天知未来シリーズを今回は読んでみました。アルカナという、占い以上超能力未満の能力を持つ少女が事件に巻き込まれていく物語です。全3巻で完結しています。

田村純一

天知未来シリーズ執筆当時は、「サクラ大戦」などで知られる、広井王子が率いるクリエイター集団レッド・エンタテインメント(旧レッド・カンパニー)に所属。

天知未来シリーズ以外では、富士見ファンタジア文庫『エレメンタルカナ―精霊症候群』があります。主にゲームなどの脚本を手掛けていたようですが、現在は作家活動はしていないようです。

愉快な奇術師 プリザント・マジシャン

著者:田村純一&レッド・カンパニー
イラスト:竜月
文庫:富士見ミステリー文庫
出版社:富士見書房
発売日:2000/11

ストーカー―人間の心の奥底に潜む悪意はふとしたことで、簡単に顔を出す…。K女子校に通う小曽根真琴は、ストーカーに悩まされていた。親友・亜美にはよく当たるという占いを勧められたりするが、気乗りがしない。エスカレートする無言電話に思い詰めた真琴がとった行動―それは、最悪の選択だった。しかも、その真琴の決断は、あらかじめ予定されていたかのように次の惨劇を生む。連鎖する殺人事件…。路上の占い師・未来は運命に導かれ、この街にやってきた。街にはびこる悪意を断ち切るために―。

ストーカーにからむ事件を描く連作短編の形になっており、それぞれの短編の登場人物が繋がり、最後の物語に集約していきます。

主人公である天知未来(あまちみくる)は、アルカナ(近代魔術)使いで占い師をしながら生活してます。天知未来の持つアルカナの能力としては、未来を予知できること、嘘を見抜くことができることの2つ。アルカナは超能力ではないとのことですが、直感の鋭いものなのか、若干分かりづらい能力です。

天知未来は基本傍観者で、3つの事件に関わることになるのですが謎を解くわけでもなく、ただ無力で何もできずに終わってしまいます。それぞれの事件には後味の悪さが残り、小説にハッピーエンドを求める人にはちょっとつらいかも。

最後の話で事件の背景にある原因となる人物が登場し、それと対峙する天知未来は不思議な能力を使うことに。このあたりが正統派ミステリでなく、ライトノベルらしいミステリーで、評価の分かれるところでしょう。

人間の深いところをエグッて来るような内容で、後味は悪いけど意外と面白いと思いました。

沈黙の隠者 サイレント・ハーミット

著者:田村純一&レッド・エンタテインメント
イラスト:竜月
文庫:富士見ミステリー文庫
出版社:富士見書房
発売日:2001/04

『アルカナ(近代魔術の一種)とは、人類全てが等しく有する能力である。ただ、その能力は、ほとんど頭の奥にある引き出しにしまい込まれたままである』新宿の雑踏に、深い絶望に打ちひしがれている男がいた。男の名は高山―「愉快な奇術師」と呼ばれるアルカナ使いだった。「救われたい」一心で男は生まれ故郷に帰る決心をした。「隠者に会いに行こう―」路上の占い師にして、稀代のアルカナ使いである未来が運命に導かれてやってきたのは宇都宮。しかし未来のアルカナは輝きをひそめていた…。不可解な飛び降り自殺に隠者の陰。「悪意」に巻き込まれた未来は―。

前作に登場した「愉快な奇術師」が関わった過去の事件と、新たにおこる学園での自殺。アルカナ使いはアルカナ使いを呼ぶということで、宇都宮にやってきた天知未来は、それらの事件の謎を解くことになります。

物語中で現在の時間と過去の時間が頻繁に切り替わるのですが、このあたりが若干わかりにくいか。学園モノの定番、校舎からの飛び降り自殺を扱っていて、題材としてはありきたりながら、過去の事件と現在の事件を対比させつつ、その2つに関わる「隠者」の存在を描き物語に深みを与えています。

前作と違い未来が謎を解くことになりますが、今作も若干後味の悪さが残ります。

ひとつ気になったのがこの作者「仮令」と書いて「たとえ」と読ますのですが、これは意図的なのでしょうが、あまり意味がないような。違和感だけが残ります。

愚者──ザ・フール

著者:田村純一&レッド・エンタテインメント
イラスト:竜月
文庫:富士見ミステリー文庫
出版社:富士見書房
発売日:2001/11

1900年代初頭に確立された近代魔術の一種、アルカナ。アルカナ研究の第一人者・天知博孝教授は、9年前の事故でこの世を去った。彼は、もっとも「危険な」アルカナを完成させようとしていたという…。稀代のアルカナ使いにして、路上の占い師・天知未来は、不慮の事故で両親を亡くした因縁の街・札幌を訪れていた。そのとき、滞在先のホテル近くで爆発事故が発生。事件を契機に天知に接近する謎の女性。そして、惹かれ合うアルカナ使いたち―。未来はあなたのいる街に、戻ります…。衝撃のクライマックス。

最終巻は北海道を舞台に、未来の父母の死の真相と連続爆弾魔の謎に迫ります。前2作に比べると物語に迫力があります。アルカナ使いという設定が若干活きていないというか、むしろ必要ないんじゃないかとも思ってしまいました。ミステリ的な内容としては、この3巻が一番面白いと思うのですが。

ただ、エピローグで物語を無理矢理まとめているような感じもあり、3巻で打ち切りになったのかなと。父母の死の真相や古賀綾華の存在、「世界<ワールド>」のアルカナについては、消化不良に感じました。

まとめ

ということで、天知未来シリーズ全3巻の感想でした。

最後に作中に登場する近代魔術アルカナについて。第2巻に次のような記述があります。

「1900年代初頭、英国で確立された近代魔術である」、「アルカナとは、人類全てが等しく有する能力である。ただ、その能力は、頭の奥にある引き出しの中にしまい込まれ、その存在自体と、引き出しの開け方を、人が忘れてしまっているだけ」、「アルカナができることは、元来備わっている器官に対し、影響を与えることが精一杯」と。

また、第3巻では「アルカナは二十二の種類に分けられ、各個の能力は様々」「二十二という数字は、タロットの大アルカナ二十二種になぞらえたものだとされており、大抵のカードの暗示が個々の能力と一致」「アルカナは超能力ではなく、無意識下への暗示―潜在能力を呼び起こしたりするものなので、人間本来が有する能力の限界を超えることはない」とも。

第1巻ではアルカナの能力を発揮した未来の髪がプラチナ色に、瞳はビジョンブラッドになる描写があったので、若干、方向性を変えたのかもしれません。未来の変化は見た人間の脳にそう思わせただけで、実際には変化していなかったとも受け取れますが、どちらにせよ、このアルカナの設定がいまいち活きていなかったような気がします。

物語的には未来の父親が世界<ワールド>のアルカナに執着していたようなので、これをめぐる物語も作者の頭にはあったのかもしれません。また様々なアルカナの能力を持つ人間と未来が出会い、未来自体は傍観者として、様々な能力をもつ人間の苦悩を描きたかったのかもとも思います。

物語自体が残酷な展開が多く、今で言うイヤミスに近い雰囲気で、ライトノベル読者層には受け入れられなかったのかもしれません。ただ、苦味を持った物語自体はもっと評価されてもいいのにとも思ったのでした。

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