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旅ラブコメラノベ3冊を読む

さて、今回は旅ラノベ3冊を読んだ感想です。旅ラノベっていうと、90年代初期のファンタジーモノはみんな旅してたし、『キノの旅』というラノベを代表するタイトルもあるのですが、ここでは最近流行りのラブコメを中心とした旅ラノベ、旅ラブコメラノベです。

今回読んだのは、

裕時悠示『高3で免許を取った。可愛くない後輩と夏旅するハメになった。』
三月みどり『同い年の妹と、二人一人旅』
青木ふゆ『美少女とぶらり旅 』

旅ラブコメラノベ

2021年末から22年にかけて、旅をあつかったラブコメラノベが複数出版されました。20年に始まった新型コロナウイルス流行によって、外出できない時期があり、その不満を解消すべく企画、もしくは書かれたのかもしれません。各著者のあとがきには、そういったことは全く触れられていないので、ただの偶然かもしれませんが。

今回読んだ3作品ともに続刊が期待できる終わり方をしながら、続きは出ていないので、残念ながらあまり売れなかったのかなと思います。どの作品も高校生男子が美少女と2人で旅をするといった、ある種羨ましい内容なのですが、実際の中高生には共感を得られなかったのでしょうか。

22年までに複数出版されましたが、それ以降は似たコンセプトの作品は出版されず、一時の流行未満といった動きでした。

実は私は旅好きなので、こういった現実を舞台にした旅モノに興味があって、今回読むことにした次第です。今回、読んだ順番で感想を載せていきます。

裕時悠示『高3で免許を取った。可愛くない後輩と夏旅するハメになった。』

著者:裕時悠示
イラスト:成海七海
文庫:GA文庫
出版社:SBクリエイティブ
発売日:2022/04

「せんぱい、免許取ったんですか?」
車で夏の北海道を旅するのが夢だった僕は、校則違反の免許を取った。しかし、最悪の相手に運転しているところを見つかってしまう。
鮎川あやり──なぜか僕のことを目の仇にする冷酷(クール)な風紀委員だ。僕の夢もこれで終わりと思いきや、「事故でも起こされたら大変です。わたしが運転技術を確認します」
ゆかいにドライブしてしまう僕ら。助手席の彼女は、学校では誰にも見せない可愛い顔を覗かせたりして。「それじゃせんぱい。良い夏旅を」 別れ際、彼女が一瞬見せたせつない笑顔に、僕は──。

裕時悠示&成海七海が贈る青春冒険ラブコメ〝ひと夏の甘旅〟始動!

裕時悠示はヒット作多数の有名作家ですが、作品は初めて読みます。内容はというと、タイトル通りで、高校3年生の主人公が運転免許を取って、可愛くない(実際はカワイイ)後輩と夏旅する話。ただ、今巻ではプロローグで終わっており、物語はこれからといったところです。

amazonのレビューに沢木耕太郎『深夜特急』のフレーズを引用し、熱く語られている方がいて「凄いな」と思うのですが、私自身はそこまで熱く語れるほどこの物語にハマることはできませんでした。

1番引っかかるのが序盤の、主人公のヒロインに対する態度でしょうか。色々と突っかかってくるとはいえ、美少女の後輩に対して可愛くないというのはどうなんだろうと。カワイイんだけど、あの性格はどうにかならないのか、くらいで可愛くないというのはないと思うのです。そこがずっと引っかかっていました。

主人公の家庭環境からくる夏休みに旅したいという思いはいいし、ヒロインの過去の出来事と主人公に対する思いもいいんだけど、旅モノとしてはまだまだこれからという印象。今巻だけでは、面白いともなんとも言えず。

1つ気になったのが、車の扱い。主人公の乗る車が何なのかです。15年くらい前の黄色の右ハンドルのイタリア車、と描写があるので、フィアット500かなと思うのですが、そのあたりあまり触れられていません。

また、主人公が自分の車に対して、どう思っているのかよくわかりません。亡き父との思い出の車のようですが、愛着を持っていそうでもなく、何かしら気に入ったところがありそうでもない。同乗することになるヒロインも、主人公の車を見てカワイイとも、古臭いとも言わず。

車旅の話なのに、第3の主人公であるはずの車が蔑ろにされているようで、もう少し車に対する書き込みが欲しいと思いました。洗車するシーンとか、カーショップでアクセサリを買うとか、もう少し車に対して主人公が接する描写が欲しかったかなと。

三月みどり『同い年の妹と、二人一人旅』

著者:三月みどり
イラスト:さけハラス
文庫:MF文庫J
出版社:KADOKAWA
発売日:2022/06

「旅は一人に限る」が信条の高校生、月島海人。好きな時間に好きな場所へ──効率よく計画通りに進められる魅力に惹かれ、バイト代を貯めては全国を一人旅していた。しかし父の再婚で義妹ができたことで、計画通りに行かない毎日が始まる。北海道から来た連れ子の美少女・冬凪栞は同い年の若女将。仕事をするうちに「旅」に憧れた彼女は、海人の旅行についていきたいと言うのだ。当然それを拒否する海人だが、栞の心中を知り仕方なく了承。代わりに、二人でそれぞれ一人旅をする「二人一人旅」ということにして、日帰り旅行から始めるが──。旅を通して、お互いを知っていく。心温まる二人の物語、出発です。

漫画で「ふたりソロキャンプ」というのがあるのですが、それの一人旅バージョンといったところでしょうか。2人が一緒に一人旅をするという話。でも、実際は一人旅的なシーンはなくて、2人で旅しているので、ちょっとなんだかなぁと。

また、物語的には「同い年の義妹」というのがウリなのかもしれませんが、義理の兄妹になる過程がずさんです。なぜ北海道の老舗旅館の女将と東京のシェフが結婚して、東京で民宿を始めるのか、話の本筋でない部分で「?」が発生しました。老舗旅館の女将が簡単に旅館を捨てるのか?と思います。むしろ主人公の父が婿入りして、北海道を物語の中心にするほうが納得いくと思います。そうすると北海道の話ばかりになってしまうから、東京に住むことにしたのでしょうが、このあたりの設定は破綻していると思います。

ただ、そのあたりは物語には関係がないのでしょう。主人公が一人旅に拘る理由が「母親との思い出」で、兄妹とはいえ女の子との旅に目覚めるということは、親離れの一種、旅を通しての成長の記録と考えれば納得できるかもしれません。

希望としては、義妹に旅のノウハウを教えるという形なので、もう少し旅の指南書的な部分があっても良かったのでは?とも思います。読者が10代として、一人旅の経験がない人も多いだろうから、旅での戸惑いや旅のコツ的なものが、読んだ人に知識として伝わればなんて。でも、読者が求めているのはラブコメであって、そんなものは求められておらず、私が読みたいだけなのかもしれませんが。

訪れるのが日光、鎌倉、函館と一般受けしやすいところをきちんと押さえているのが良いかな。

青木ふゆ『美少女とぶらり旅 』

著者:青季ふゆ
イラスト:いちかわはる
文庫:富士見ファンタジア文庫
出版社:KADOKAWA
発売日:2021/12

忙しない日常から逃れて旅がしたい!  そんな望みを、学年一の美少女と叶えられたら? 東京に住む高校生、高橋翔は窮屈な日常に嫌気がさして旅に出ることを決意。駅のホームに着くと同級生、七瀬涼帆の姿が。思い詰めた様子の彼女を見て、翔は「俺と一緒に旅に出よう!」と誘って──。
最初は不信感たっぷりだった七瀬も、いつもの鉄仮面を脱いで足湯にほっこりしたり、ご当地グルメに舌鼓を打ったりと満喫し始める。「べ、べつに楽しんでなんかないんだから!」「私、夕陽が好きだったみたい」「ありがとう、私を旅に連れ出してくれて」
ワケありクーデレ美少女と紡ぐ、解放感120%の旅ラブコメ!

旅ラブコメラノベで最初に出版されたのは、こちらなのかも。

あらすじや出版社の特設ページからは、ゆるっとした内容を想像しますが、内容は思ったよりもちょっとハード。”ぶらり旅”という電車に乗りつつ町をブラブラするかのようなタイトルですが、一応、自殺志願少女と家出少年の家族からの逃避行です。まったりしてますけど。

旅をしながら距離を縮めていく2人の関係性だけに注目すれば、ただのラブコメですが、脇役として登場する、ある種奇矯な人物たちの存在まで考えれば、もっと深い内容を含んでいるように感じます。

主人公の少年は将来の職業をめぐり親と対立、自殺未遂のヒロインは母親との関係性に悩んでいる。道中で出会った少女は高校3年生を3度しながらもポジティブに生き、東京のブラック企業で働く女性は夢を取り戻す。それぞれの生き方の物語ですね。

今回、旅ラノベを何冊か読んだ中で、1番充実した内容で楽しめました。旅先での内容は、それほど面白くないのですが、そこは目的ではないのでしょう。

ヒロインの「旅はリフレッシュにはなったが、もっと生きたいと思うほどの思考にならなかった」的なセリフが深くて良いのです。

まとめ

今回3冊の旅ラブコメラノベを読みました。青木ふゆ『美少女とぶらり旅 』がダントツで面白くて、その他はそれほど。『美少女とぶらり旅 』は旅ラノベという体裁ですが、主人公及びヒロインのこれからの生き方に対する悩み、脇役として登場する人物の生き方をきちんと描いており、イチャイチャしたラブコメ風ですが、真摯な内容に感じました。

対してほか2作品は、銀色の髪の後輩を出しとけば良い、突然出来たかわいい義妹を出しとけば良い、それらと主人公がイチャイチャしておけば読者は喜ぶだろう、なんて思っているのではないかと思ってしまいました。これら両作品にはこだわりを感じなかったという思いもあります。車旅をテーマにするなら、もっと車に関するこだわりが欲しかった、ひとり旅をテーマにするなら、もっとひとり旅に対するこだわりが欲しかった、そんな感じです。

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