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電撃コラボレーション『MW号の悲劇』を読んで【ラノベ・アンソロジー】

さて、今回は電撃コラボレーションの第2弾『MW号の悲劇』を読んだ感想です。

電撃コラボレーション

もともとは雑誌『電撃hp』『電撃文庫MAGAZINE』誌上にて行われた企画で、「電撃作家陣が同じテーマ&同じシチュレーションのもと、コラボレーション作品を描く」がメインコンセプトです。wikipediaによると、かなりの企画が開催されているようです。

その中で電撃文庫創刊15周年記念企画として、2008年に『まい・いまじね~しょん』『MW号の悲劇』『最後の鐘が鳴るとき』の3企画が文庫化されました。その後『電撃文庫MAGAZINE』では「まるごと1冊“電撃文庫”」として、アンソロジー企画がそのまま付録になることもあったようです。

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MW号の悲劇

発売日:2008年9月

6月18日午後9時、南洋を航行中の豪華客船・MW号を異変が襲った。静寂を劈いてけたたましく鳴り響く悲常ベル。それは事件が事件を呼ぶ、波乱の幕開けに過ぎなかった―。さまざまな思惑と陰謀が渦巻き絡まり合う、MW号の運命は…!?

「残酷劇の夜」「DIVE TO BLUE」「MW号専用掲示板 「ウィー・アー・オン・ボード!」」「万年すだれ禿係長小 喜八郎の冒険」「蟻塚と500人の海賊」は「電撃hp Vol.30」に、「応答せよ! びんかんサラリーマン!」は「電撃hp Vol.31」、「Les Aventures ~冒険者たち~」「Sisterhood」「MW号の命題」は通販限定公式海賊本「電撃h」、「内藤君と水野君の場合」「HERO」は通販限定公式海賊本「電撃p」にそれぞれ掲載された作品に加筆したもの。

収録作品
MW号だよ! びんかんサラリーマン!! / おかゆまさき&とりしも
残酷劇の夜 / 渡瀬草一郎
DIVE TO BLUEI / 三雲岳斗

MW号専用掲示板 「ウィー・アー・オン・ボード!」 / 時雨沢恵一
万年すだれ禿係長小保多喜八郎の冒険 / 有沢まみず
蟻塚と500人の海賊 / 成田良悟

Les Aventures ~冒険者たち~ / 近藤信義
HERO / 藤原祐
内藤君と水野君の場合 / 在原竹広

Sisterhood / 岩田洋季
MW号の命題 / 谷川流
「魔法のランプ」 航海日誌 / 成田良悟
応答せよ! びんかんサラリーマン! / おかゆまさき

※電子書籍化されていますが、前後編で分冊になっています。

読んだ感想

『舞台は6月18日午後9時、異変を生じた南洋上の豪華客船MW号。必ず織り込むべき言葉は「タコ」「電撃」「30」』、今回のお題はこれだけです。

それぞれの作品の簡単な感想と著者の略歴を。

MW号だよ! びんかんサラリーマン!! / おかゆまさき

びんかんサラリーマンというのは、おかゆまさき作品「撲殺天使ドクロちゃん」に登場する作中作?のようです。その主人公敏感一郎を主人公にしたカラー4pの物語。最初の見開きでエロ展開を期待させて、次の見開きで落とす内容。別に読まなくても良い内容。

残酷劇の夜 / 渡瀬草一郎

等身大人形が並ぶ船内バー「ぐらんぎにょる」。人形に並んで座っている、まるで人形のような生気のない少女。この少女の家庭教師をすることになった主人公は、なんの反応も示さない少女に手を焼くことになります。そして6月18日午後9時、非常ベルが鳴り響き、沈み始めた豪華客船。そこで見せた少女の反応は……

沈没していく船の中で逃げ惑う人たちと、主人公たちの行動・感情がしっかり描かれ、トップバッターとして上々の作品。

渡瀬 草一郎 2001年に『陰陽ノ京』でデビュー。代表作に『空ノ鐘の響く惑星で』があります。現在は小説家になろうにて、「猫神信仰研究会」名義で活動しています。

DIVE TO BLUEI / 三雲岳斗

三雲岳斗という作家は好きな作家のひとりなのですが、この作品に関しては残念としか言いようがありません。

内容的には品のない話でトイレを我慢して漏らしそうなんてのが延々続く。もっと嫌なのは美人を持ち上げ、そうでない人を外見・性格ともに徹底的に酷く描いていること。著者はこういうのを面白いと思っているのかもしれませんが、発表された時代を考えても酷すぎるように思います。読んでいて気分が悪くなりました。

三雲 岳斗 1998年『コールド・ゲヘナ』で第5回電撃ゲーム小説大賞銀賞を受賞し、デビュー。1999年『M.G.H.』で第1回日本SF新人賞、『アース・リバース』で第5回スニーカー大賞特別賞を受賞。代表作はアニメ化もされた『アスラクライン』『ストライク・ザ・ブラッド』『ダンタリアンの書架』など。

MW号専用掲示板 「ウィー・アー・オン・ボード!」 / 時雨沢恵一

船内からの掲示板への書き込みと、それに反応するウォッチャーとのやり取りだけで、事故を描いた作品。事故が起こっていても、それを本当のことか、ネタなのか、受け取りに逡巡する人達の姿がリアルで面白いです。

時雨沢 恵一 2000年に『キノの旅』でデビュー。現在も続く『キノの旅』は電撃文庫のみならず、ライトノベルを代表するシリーズ作品と言え、アニメ化もされています。それ以外にも「学園キノ」「アリソン」など人気作多数。現在は電撃文庫「ソードアート・オンライン」のスピンオフ作品「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」が人気です。

万年すだれ禿係長小保多喜八郎の冒険 / 有沢まみず

物語の内容自体は面白いです。仕事でも家庭でもパッとしなかった万年係長のサラリーマンが、人生の最後にと豪華客船に乗り込んだが、それが事故に巻き込まれてしまう。今まで自己主張がうまくできずに流される人生だった主人公が最後に見せた姿は……

ただ、これも何故「すだれ禿」なのだろうと。こういう外見でまず貶めるのは好きではありません。

有沢 まみず 2001年『インフィニティ・ゼロ 冬〜white snow』でデビュー。代表作はアニメ化もされた『いぬかみっ!』。現在はアニメの脚本などをメインにしています。

蟻塚と500人の海賊 / 成田良悟

「電撃hp Vol.30」掲載時はこの作品がトリを飾っていたので、内容的にも上記の作品を踏まえた上での内容になっています。豪華客船に乗り合わせた人だけを描くのではなく、豪華客船を襲う海賊を描くという視点が良いです。客船に乗り合わせた客に殺人鬼がいるというのもまた面白いです。トリをとるのが常となる作家の、さすがの作品。

成田 良悟 2003年『バッカーノ!』でデビュー。群像劇を得意としており『デュラララ!!』が代表作。最近では漫画の原作なども手掛けています。

Les Aventures ~冒険者たち~ / 近藤信義

MW号沈没から3ヶ月後、沈没の原因と考えられる大ダコをやっつけようと集った3人の物語です。「電撃hp Vol.30」のあとに販売された公式海賊本に掲載されたということで、変化球の時間設定。内容はタイトル通り「冒険者たち」の物語で、ストレートに楽しめます。

近藤 信義 2004年『ゆらゆらと揺れる海の彼方』でデビュー。デビュー作以外では、2010年の『ドッグオペラ』があるのみ。

HERO / 藤原祐

改造人間?なのか、ロボット?なのか。その主人公と、曰くありげなその家族の物語。コメディ調というか、ギャグというか、今ひとつ何をしたいのかちょっとよくわからない作品でした。

藤原 祐 2003年に『ルナティック・ムーン』でデビュー。代表作に『レジンキャストミルク』など。現在はカクヨムで執筆。その連載作『レリック/アンダーグラウンド』がコミカライズされています。

内藤君と水野君の場合 / 在原竹広

こちらもちょっとコメディ調の作品。メタ的なセリフとかギャグとか、笑わせようとしているのですが、ちょっと滑っている感じ。

在原 竹広 2003年『桜色BUMP』でデビュー。電撃文庫以外に、近年ではHJ文庫でも執筆しています。

Sisterhood / 岩田洋季

客船に乗り合わせた姉妹と猫をめぐる物語。序盤早々、退場する姉の取る行動が意味不明。3日干しの刑なんていうのも面白くないし、コメディ調にしたいのかよくわかりませんでした。3作連続でテイストが似通っていて、ちょっと損をしているのかも。

岩田 洋季 2002年『灰色のアイリス』でデビュー。代表作はアニメ化もされた『護くんに女神の祝福を!』 現在も電撃文庫で活躍中。

MW号の命題 / 谷川流

MW号が何故沈んだのか、その理由を後年考察するという内容。巨大タコ説、古代邪神説、海賊説などなど、ややメタ的な内容もありますが、物語で読ませるのではなくパターンを提示する読ませ方。古代邪神説なんかはしっかりと読んでみたい。終わらせ方も良いです。

谷川 流 2003年、第8回スニーカー大賞受賞作『涼宮ハルヒの憂鬱』と電撃文庫『学校を出よう! Escape from The School』の同日発売で文庫デビュー。説明不要でしょう。

「魔法のランプ」 航海日誌 / 成田良悟

文庫のための描き下ろしでしょうか。掲載作の話を受けた内容でエピローグというか、後日談的な内容。なくても良いかな。

応答せよ! びんかんサラリーマン! / おかゆまさき

巻頭カラーページ同様、敏感一郎を主人公にした物語。敏感というより全身性感帯といったところか。面白さが理解できませんでした。

おかゆまさき 2003年『撲殺天使ドクロちゃん』で文庫デビュー。同作はアニメ化されるなどヒット。近年ではダッシュエックス文庫『友達のお姉さんと陰キャが恋をするとどうなるのか? 』など。

まとめ

お題が難しかったのか、前作『まい・いまじね~しょん』に比べると、面白い作品が少なかったように思います。沈没する豪華客船という舞台から、逃げる人たちを描くとベタになってしまいがちですし、短いページで大きな展開を描くのは難しいのでしょう。

逃げ惑う人たちを描いた作品としては「残酷劇の夜」「万年すだれ禿係長小保多喜八郎の冒険」の2つが面白かった。「蟻塚と500人の海賊」「Les Aventures ~冒険者たち~」は大ダコに対峙する者たちの物語として、ワクワクして良い。こういうのをもっと読みたいと思いました。変化球的な面白さとしては『MW号専用掲示板 「ウィー・アー・オン・ボード!」』「MW号の命題」が。アンソロジーの中でこそ生きるタイプの作品はこういうのじゃないかと。

コメディ調の作品はどれも今一つの感じ。シリアスな舞台設定の中では、やはり難しいのではないかと思いました。ひとつ残念な作品としては「HERO」が、ロボットもの的な発想は面白いのですが、ちょっと要素を詰め込みすぎたかなと。シンプルにバカバカしい話なら、良かったのにと思いました。

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最後にカバー裏に当時アスキー・メディアワークス取締役会長だった佐藤辰男の「『MW号の悲劇』に寄せて」が載っています。電子書籍ではどうなっているのかわかりませんが、紙版をお持ちの方は見落とさないようにご注意を。

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