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【90年代単巻ラノベを読む16】水無月 ばけら『友井町バスターズ』を読んで

さて、今回の【90年代単巻ラノベを読む】は、96年の第8回富士見ファンタジア長編小説大賞の準入選作品『友井町バスターズ』を読んだ感想です。

友井町バスターズ

著者:水無月 ばけら
イラスト:森山 大輔
文庫:富士見ファンタジア文庫
出版社:富士見書房
発売日:1997/06

ぼく、勝亦ひかる。富士山の見える町、友井町に住む、小学校五年生。ある金曜日、親友の雨森康雄ことキャンディが、クラスメイトの柿ピーが失踪したってことを知らせてきたんだ!

こうしちゃいられない。ぼくは早速、キャンディと、超能力を持っている(らしい)ぼくの妹きららとともに、柿ピーを捜す旅に出発した。

だけど、それがあんなに凄い大冒険になるとは、その時のぼくにはわからなかったんだ…。

第8回富士見ファンタジア長編小説大賞の準入選に輝いた作品。ピチピチの新鋭が描く、ハートフルで懐かしい、ファンタスティック・アドベンチャー。

96年の第八回富士見ファンタジア長編小説大賞の準入選作品。著者の水無月ばけらはこれ以外に作品を発表していません。

読んだ感想

近未来を舞台にした、男子3人女子1人のひと夏の冒険もの。近未来を舞台にしているので、宇宙船や警備ロボットも登場するジュブナイルSFといったところでしょう。ある意味ライトノベルっぽくない。97年というと、「剣と魔法」のファンタジーのブームも落ち着いてきたころ(ピークは96年という説もあり)。ファンタジア文庫も次の一手を考えて、こういう作品をファンタジア大賞で拾い上げたのかも。読み終えた後は、そんなことを考えました。

主人公たちは、担任教師のパワハラで心を病み入院した友達に会いに行くのですが、その行程で宇宙船で地球を一周したり、病院からのがれるために警備ロボットと戦ったりと、小学5年生らしからぬ大冒険を繰り広げます。そして、その裏には……

ちょっと都合良く話が進みすぎたり展開に納得できないところがあり、引っかかりを持って読み進めたのですが、それも最後でうまく回収されていました。また最初に読んだときはよくわからなかった序章の意味もわかるようになっています。

そして神坂一の「解説になっていない解説」に書いてあるように、裏読みすればもうひとつの別の面が見えてきます。表面的には宇宙船や警備ロボットを絡めた冒険活劇ですが、よく読むとひとりの少女が事故で失った「本当の、心からの笑顔」をとり戻す物語です。ただ、そのへんに関しては不親切というか、もう少しわかりやすく描いた方が良かったのではと思ったりします。特にイド・ブレイクルームに関しては、自我であるイドと井戸をかけて話が進んでいくのですが、イド=自我ということがわかっていないと、わかりにくいのではないかと。

個人的にはひと夏の冒険ものとして、もう少し単純にしてもよいのかなと思いました。それだと中高生向け(ライトノベル)としてはもの足りないので、過去のトラウマと兄弟愛・親子愛を絡めたのかと。その分ちょっと中途半端な印象になってしまっているような気がしました。

わりと良質なジュブナイルSFですが、名作として現在名前が挙がってこないのは、そのあたりに原因があるような気がします。

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