さて、スニーカー文庫週間も今回が最終回。現在もライトノベルの第一線で活躍する、三雲岳斗のスニーカー大賞特別賞受賞作『アース・リバース』を読んだ感想です。
三雲 岳斗(みくも がくと)
1970年大分県生まれ。1998年『コールド・ゲヘナ』で第5回電撃ゲーム小説大賞(現・電撃小説大賞)銀賞を受賞し、デビュー。1999年『M.G.H.』で第1回日本SF新人賞、2000年『アース・リバース』で第5回スニーカー大賞特別賞を受賞。
ライトノベルでは『アスラクライン』『ストライク・ザ・ブラッド』『ダンタリアンの書架』など、アニメ化作品も多数。ライトノベル以外にも、SFやミステリも執筆しています。
アース・リバース
著者:三雲 岳斗
イラスト:中北 晃二
文庫:角川スニーカー文庫
出版社:角川書店
発売日:2000/06
第5回スニーカー大賞特別賞受賞作品
灼熱の溶岩に地表を覆われた世界―炎界。人型航空兵器“天使もどき”で要塞都市の防衛にあたっていたシグ・クルーガーは、不時着した敵機から這い出した少女ティアを撃つことができない。少女は告げる―「世界の果てを見に行こうと思ったのよ」と! 彼女を救ったために逃亡者となったシグを追いつめるのは姉のレネが指揮する高速巡航空母と、美しき女狙撃手、イザベル。世界の果てに楽園への扉は存在するのか? 炎界の謎とは?
読んだ感想
ライトノベルの分野では、アニメノベライズを除いて、意外とロボット(メカ)アクションが少ないように思います。ぱっと思いつくところでは『ARIEL』『フルメタル・パニック』『ガンパレード・マーチ』くらい。そんな中、三雲岳斗は『コールド・ゲヘナ』『ランブルフィッシュ』『アスラクライン』と、ロボットモノを複数書いている珍しい作家です(アスラクラインはロボットモノか微妙ですが)。
で、『アース・リバース』もロボットアクションモノですが、こちらはさらに珍しい単巻モノ。スニーカー大賞応募作ですので、1巻できっちりまとめられています。世界設定のスケールの大きさに比べ物語はあっさりめとなりますが、主人公のボーイ・ミーツ・ガールストーリーとして、読後感の良い物語となっています。
舞台となるのは、暗黒の空と灼熱のマグマの海だけの世界―炎界〈フレイムシー〉。そこにはリダウトと呼ばれる、鋼鉄の都市が浮かび、人々はその中で生活をしています。炎界には複数のりダウトがあり、炎の中の資源をめぐり時には争いになることも。その戦いの中心となるのが、人型航空兵器〈デミ・エンジェル〉。パイロットとなるのは、ジャッジと呼ばれる選ばれし者たち。
主人公・シグはある日、領空侵犯した機体を追撃することに。敵機を完全に破壊できず、炎の中に浮かぶ岩場に不時着した機体の中にいたのは、ティアと名乗る14・5歳のかわいらしい少女。その少女は”世界の果て〈ワールド・エンド〉”を目指していると話します。何故かこの少女に惹かれたシグは、その少女をかくまうことを決意します。
しかし隠匿はバレ、シグとティアは”世界の果て”を目指して、リダウトを脱走することに。追手となるのは姉であり部隊長でもあるレネ、そして元恋人のイザベル。”世界の果て”にたどり着けるのか、そしてそこに隠された秘密とは…..
最初炎界の設定を読んだときに、こんな星に住んでいる意味がわからん、都市や航空兵器を浮遊させる技術があるのなら他の星に行けばよいのに、なんて思っていたのですが、みごと騙されました。タイトルの「アース・リバース(反転した地球)」のアイデアがあって、そこにボーイ・ミーツ・ガールとメカアクションをくわえ、うまくまとめた作品だなと思いました。
また、お姫様キャラのティア、主人公の姉であり、部隊長でもあるレネ、それをサポートするマウザー、整備兵のジェレミーなど、キャラクターも魅力的です。とくに元恋人(シグはそれほど好きではない)のイザベルが狂気を持った人物で、こういうキャラは好きです。
ロボットアクションの描写も良くて。主に空中戦なので、アニメでいうとガンダムよりもダンバインといった感じです。ラストの巨大メカを倒す方法も、意外性がありました。ロボットアクション小説としても、一級品だと思います。
ただ読んでいてもちろん面白かったのですが、それ以上に上手い作品だなという感想です。この上手さの中には、手堅くまとめたという意味もあって、破天荒な面白さはちょっと弱いのかなと。ある意味新人らしさがないというか。著者のその後の活躍(スニーカー大賞以前に電撃ゲーム小説大賞や日本SF新人賞もとっているし)を考えれば、この作品はその実力の一端を垣間見せただけのようにも思えます。名作とまでは言わないものの、良作であると言えます。
なお、雑誌『ザ・スニーカー2000年6月号』に「アース・リバース・プレビュー」という短編が、掲載されているとのこと。そこには本編で語られなかったレアの過去が語られているらしいです。文庫未収録ですので、興味のある方は、それを探してみるのも良いかもしれません。