さて、今回は90年代に富士見ファンタジア文庫から出版された単巻ラノベをまとめたもの、第2弾です。90年代のラノベに興味を持って読んでみようと思っても、どれも複数巻の長いものばかり。サクッと90年代を味わえるラノベはないものか?と感じた私と同じような人のために、まとめておきます。
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なお、既読作品には星印の評価を添えてあります。未読のものは未評価で、今後読み終わり次第、評価をつけていく予定。あくまでも個人的な好みです。
面白い。読んで損は無し。
面白い。楽しめます。
それなりに面白いかも。
時間があれば、読んでみるのも一興。
大雑把な評価ですが、もし読んだことがないものがあれば、参考にしてください。
ねこたま / 小林 めぐみ
著者:小林 めぐみ
イラスト:加藤 洋之&後藤 啓介
発売日:1990/12
時は、貴族社会が形骸化し、王侯貴族たちが、やることをなくしてしまった、そんな時代―。ルー・ヴァイアは王太子ガルタのお伴として人跡未踏の地、デルゾントに向かっていた。一行の目的はデルゾントのどこかに眠るという〈王女の卵〉の探索。だが、気化狼に襲われ、いきなり主従ふたりっきりになってしまった彼らの前に、奇妙な少女が現れる。伝説の魔獣ガシューに育てられたというその少女アクアクは、〈卵〉のありかを知っているというが…。安田均氏他選考委員が驚嘆した期待の新人。第二回ファンタジア長編小説大賞準入選作。
オススメ度:未読
ポート・タウン・ブルース / 麻生 俊平
著者:麻生 俊平
イラスト:中村 亮
発売日:1991/03
惑星カナベラルのポート・タウン―人類が異星人との戦争に敗れるまで、この街は宇宙への玄関口であった。敗戦から四年、人々は心の傷も癒えぬまま、日々の生活をおくっていた。ある日、この街に住む私立探偵クドウ・リュウスケは、エリーナ・スギのと名乗る女性から、いまだ戦場から戻らぬ恋人の捜索を依頼される。彼女の恋人、サイラス・ベンダーの足どりを追うリュウスケは奇妙な事実と怪異な事件にでくわした。この仕事のウラには何があるのか。期待の新人が描く本格近未来ハードボイルド・アクション。第二回ファンタジア長編小説大賞準入選作。
第2回ファンタジア長編小説大賞準入選作。現在ファンタジア文庫版は入手困難ですが、電子書籍化されています。
オススメ度:未読
風恋記 / 六道 慧
著者:六道 慧
イラスト:あしべ ゆうほ
発売日:1991/03
風はいつも、彼女とともにあった―。幼くして実母と死に別れ、優しい義父と義母に育てられた布倉瞳子は、16歳にして初潮を迎えた。時を同じくして彼女に不思議な能力がめばえる。死期の近づいた人間がわかるようになってしまったのだ。そしてさらに奇怪な事件が…。誰かに命を狙われている。不安におののく瞳子の前に、彼女の許婚者だという少年が現れた。瞳子の夢の中から出現したような理想の少年、冬城。謎に満ちたその正体は?過去の惨劇が甦るとき、激しく風が吹き荒れる―。書き下ろしロマンティック伝奇ホラー。
少女の恋心を物語の中心にしつつ、因習の残る村、過去の殺人事件、謎の美少年、黄金伝説などを絡めて、伝奇ホラーを少女小説風に仕上げた作品。あとがきで著者は、テーマとし「人間の誕生・進化」を挙げていますが、人類の進化は……というトンデモな話がありつつも面白いです。
オススメ度:
まさかな / 小林 めぐみ
著者:小林 めぐみ
イラスト:加藤 洋之&後藤 啓介
発売日:1992/01
謎の海面上昇により都市のほとんどが水没してしまった時代。それでも人々はたくましく生きていた…。“さかな!”―少女は言った。海洋物理学講座の〈使いっぱ〉リチャード・クレイ(通称ディック)は愕然とした。彼ら海洋物理学講座の面々は、秘密裡に飼っていた金魚(体長2メートル)の処置に困り、今朝、海に捨ててきたばかりだったのだ。なぜこの娘はそれを。凡人ディックは知るよしもなかった。この奇妙な能力を持つ少女沢田郁生との出会いが、巫女姫殺人事件、そして巨大魚にまつわる不思議な物語に巻き込まれていく、運命の一瞬であることを…。『ねこたま』でファンタジア大賞選考委員を驚愕させた小林めぐみが斬新な感覚で描く、未来派ファンタスティック長編。
オススメ度:未読
事件屋シン&ダイ スクラップ・ドリーマー / 園田 英樹
著者:園田 英樹
イラスト:加藤 洋之&後藤 啓介
発売日:1992/02
下層民の若者探偵コンビが、いつも痛い目にあいつつ、くじけずに上を向くSFアクション物語。ショーケンのドラマ「傷だらけの天使」を思い出させる物語です。主人公キャラが下品で魅力がないかも。
未来の物語ながら章題にあるように、ジョン・レノン「スタンド・バイ・ミー」やドアーズ「ブレイク・オン・スルー」など、物語に音楽を取り入れているところが面白いです。ただ、これらの音楽を知らないと、ちょっと「?」となるかも。
オススメ度:
竜の聖域 / ひかわ 玲子
著者:ひかわ 玲子
イラスト:末弥 純
発売日:1992/03
イタリアのとある町の裏路地に、ひとりの美しい青年が出現した。青年は、彼とうりふたつの美しい娘の屍を見つけた。娘の屍は青年に告げた。我を殺せしは、竜王グレヴァーン、と…。青年の名はレン族のラセリー。娘はその妹エーレン。この地球を創造した“神”の一族であった。時は世紀末。といっても人々はふだんどおり暮していた。だが、人類の誰ひとり知らぬところ、はるか高次元の空間では、美しき神々が、各々の一族の存亡を懸け、はてなき闘いをくりひろげていた。神に愛でられたため、図らずもその争いにまきこまれた高校生とそのガールフレンド。彼らが見た、華麗にも壮絶な闘いのゆくえは。
創造主たる神々の部族間対立を描く物語。創造物である地球の中学生カップルと、神々の上位に存在する竜王を絡めて物語に奥行きを持たせています。面白いのは登場人物男女とも全員美形なところ。後書きによると、もともと美形づくしの物語を書いてやろうとの考えがあったとのことです。ほのかにBL臭もします。
単巻なので超長編的大河物語の面白さはありませんが、長い物語の一部を切りとり、描かれている物語以外の奥行きが良いです。 もうひとつ、登場する地球上の中学生の美少女が面食いという設定で、美形の神々を見ては、♡付きのセリフを連発しているのが楽しい。
オススメ度:
絶神久遠 / 庄司 卓
著者:庄司 卓
イラスト:米村 孝一郎
発売日:1992/05
アメリカ合衆国が極秘に開発した特種大型強襲艦「グノーシス」は試験航海の最中にメイン・コンピュータが暴送、艦隊から脱走してしまった。「グノーシス」は「東方の守護者」を倒すため一路、日本を目指していた。アメリカからの連絡を受けた日本政府は「東方の守護者」国に関わる者、「アスライ」に連絡を取った。過去、日本に危機が迫る時、人々を救うために現われる存在であった。その者とは世界的な物理学者であり、タレント学者としても有名な明日来はるかと地方都市で高校の教師をしている明日来かなた、双子の美人姉妹である。どこから見ても普通人にしか見えない二人だが、何ゆえに狙われるのであろうか?新進、庄司卓が送るSFアクション。
はるか昔より争い続ける「絶神」と「滅神」。生物の遺伝子構造の中に隠れている「絶神」の一部であり、半覚醒状態としての存在が久遠。久遠の現実での姿は双子の美人姉妹で、この2人が超能力を使って、「滅神」の手先となった特種大型強襲艦グノーシスと戦うSFアクション物語。
オススメ度:
黒衣の武器商人 / 井上 雅彦
著者:井上 雅彦
イラスト:米田 仁士
発売日:1992/05
月刊ドラゴンマガジン誌に掲載された3編の連作短編を、作中に挟み込む形で書かれた長編作。
もともとドラゴンマガジン誌に掲載された作品は、《黒衣の武器商人》が登場するのと、オチが不幸で終わるという共通点だけで、中世ファンタジー、スペースオペラ、伝奇時代劇と全く毛色の違うものです。この全く毛色の違う物語を作中作として取り入れ、その物語の中を渡り歩きながら敵と戦うという形で、ひとりの高校生の冒険ものにまとめています。
「世にも奇妙な物語」や「笑うセールスマン」的なちょっとブラックな短編と、ジュブナイルらしい冒険ものを一挙に楽しめる、おすすめの作品です。
オススメ度:
トラップ / 上原 尚子
著者:上原 尚子
原作:杉山 東夜美
イラスト:佐山 善則
発売日:1992/06
1969年、アメリカはいつ果てることも知れない戦争を続けていた。ベトナム戦争が多くの人間の運命を捩じ曲げてしまうことに気づかぬままに…。一アメリカ市民の義務として、ハリソン・J・シナーはベトナム戦争に参加した。が、ただの義務が彼の運命を大きく変貌させてしまったのだ。泥沼化したベトコンとの戦闘に疲れきった体を癒すまもなく、彼の所属する部隊に1つの命令が下った。それはソビエトが開発し、北ベトナム軍が使用している新兵器の破壊である。愚痴をこぼしながらも、ハリソンたちは新兵器がある場所まで移動をした。そして、―そこで見た物がハリソンを絶望と怨嗟の海へと叩き込むのであった。「虚空の剣」の杉山東夜美と上原尚子のコンビが送るハードボイルドアクション。
1969年ベトナム戦争時、主人公の所属するアメリカ軍のとある部隊にくだされた秘密指令は、ソ連が開発し北ベトナム軍が使用する新型殺戮兵器の破壊でした。部隊は主人公ともう一人を除き壊滅、そこから始まる彼らの復讐の物語です。読む前はあらすじから、ベトナム戦争がメインで描かれるかと思っていたのですが、戦争がきっかけの復讐がメインの物語でした。
復讐のために整形、パスポートを偽造し、あらゆる手を尽くしたうえで迎えた結末は残酷なものに。ハッピーエンドでない結末は現在だとあまり受けいれられないでしょうが、この作品が書かれた90年代だとこういう結末の、虚しさや無力さを感じさせる作品も多かったように思います。
あとがきにも言及があるのですが、戦争もの+マフィアもので、映画的といいましょうか、映像作品からの影響をひしひしと感じました。ベトナムからの逃亡ルートや新兵器のその後が描かれないなど、物足りない部分もあるのですが、それでも味わい深く面白い作品だと思います。
オススメ度:
モザイカ / 高橋 良輔
著者:高橋 良輔
イラスト:塩山 紀生
発売日:1992/08
オススメ度:未読
とりあえずまとめ
以上、90年12月から92年8月までに出版された単巻作品の紹介でした。
現在、呼んだ中でのオススメといえば、井上雅彦『黒衣の武器商人〈アイテムディーラー〉』です。ちょっとブラックな短編と、ジュブナイルらしい冒険ものを一挙に楽しめ、ラスボスの意外さも含めて最高の一冊と思います。
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