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稲生平太郎『アクアリウムの夜』を読んで【スニーカー・ミステリ倶楽部を読む】

さて、今回はスニーカー・ミステリ倶楽部の『アクアリウムの夜』を読んだ感想です。ネタバレ100%なので、未読の方はご注意ください。

稲生平太郎

本名 横山 茂雄(よこやま しげお )、日本の英文学者、翻訳家、作家。奈良女子大学名誉教授。

京都大学UFO超心理研究会、京都大学推理小説研究会に所属し、京都大学幻想文学研究会を主宰。岡山大学講師、助教授を経て奈良女子大学助教授、教授。2020年3月で定年退職により名誉教授。(以上、Wikipediaより)

カバーそでの著者紹介によると「怪奇幻想文学とオカルティズムにまたがる領域を広くカバーして創作・評論・研究活動を行っている」とのこと。

アクアリウムの夜

著者:稲生平太郎
イラスト:緒方剛志
文庫:角川スニーカー文庫 スニーカー・ミステリ倶楽部
出版社:角川書店
発売日:2002/02

春の土曜日の昼下がり、親友の高橋と行った奇妙な見世物、“カメラ・オブスキュラ”。そこに映し出された水族館には、絶対にあるはずのない、地下への階段が存在した。恋人の良子に誘われて試したこっくりさんは不気味に告げる―「チカニハイルナタレカヒトリハシヌ」!“霊界ラジオ”から聴こえてくる謎めいたメッセージに導かれ、ぼくたち3人のせつなく、残酷な1年が始まる。伝説の青春ホラー・ノベル、待望の文庫化。

1990年に書肆風の薔薇(しょしかぜのばら)ロサ・ミスティカ叢書から出版された作品を文庫化したもの。

読んだ感想

ここからネタバレ含みます。

まずあらすじ紹介に「伝説の青春ホラー・ノベル」とありますが、ホラーというよりも幻想小説といったほうが適していると思います。内容的には怖い話ではありますが…… なお、単行本で出版されたときの帯には”サイキックノベル”なんて言葉が書かれていますが、超能力はでてきません。

物語はあることをキッカケに狂気に囚われていく、2人の少年と1人の少女を描く青春怪奇幻想ジュブナイル小説。読みおえてまず、面白かったの一言でした。物語を通して見ると様々な要素を含んでおり、青春モノな前半、伝奇小説的な中盤、幻想小説的なラストと3種類の味わいがありました。

まず前半から中盤にかけては見世物“カメラ・オブスキュラ”で見た、ある筈のない水族館の地下への階段の存在に引っ掛かりを覚えた主人公の友人・高橋がどんどんと狂気に囚われていくさまが描かれています。見世物小屋で見た引っ掛かりはほんのキッカケで、それを加速させていくのは、主人公広田とその恋人良子、そして高橋が、行きつけの喫茶店で遊びで行った”こっくりさん”。

「チカニハイルナタレカヒトリハシヌ」

こっくりさんの不気味なお告げをかき消そうと広田が口走ったのは、霊界ラジオの噂。ラジオのノイズの中に霊界からのメッセージが聞こえるというもの。これらのことにより高橋は狂気にとらわれていくことに。このあたりは不穏な空気があるものの、2人の少年と1人の少女の青春モノのように読めます。

高橋が狂気に囚われていくと同時に、広田と良子は水族館の成り立ちを調べることになります。水族館を作ったのは良子の祖父で、どうやら新宗教・白神教の教主、出門鬼三郎と関わりがあったとわかるのです。

この出門鬼三郎にまつわる話が中盤の山場で、伝奇小説っぽく感じます。出門がチベットに行き訪れたシャンバラの記録。出門鬼三郎の記録を調べていた教師の遠藤は、この地下洞窟で出門は何かを手に入れたのではないか、そして水族館には地下室があり何かを閉じ込めたのではないかと。白神教が祀るのは蛇神、水族館の地下には……

ここからさらに物語は加速していきます。狂気に囚われた高橋は霊界ラジオから、金星人のメッセージ聞こえたという。完全に狂気に囚われてしまった高橋は、梅雨があける前の時期に精神病院に収容されることに。

そして迎えた秋の文化祭。正気を取り戻したかのように見えた高橋は学校に復帰、しかし文化祭で行われた舞台で死体となって落下してくる……

高橋を殺したのは誰か? 高橋が落下してくるときに、広田が見かけたのは司書の英子。広田が普段から親しく接していた司書で、教師遠藤の妻で、英子の母は白神教の信者。英子に疑いを持った広田が行きつけの喫茶店のマスター多佳子に相談したところ、明かされた多佳子と英子にまつわる過去の出来事。英子を問い詰める広田だが、英子は多佳子が過去に狂気に侵され、何度も精神病院に入っていると告げる。

ここの英子と多佳子、主人公広田を見守る立場にあった2人が狂気をはらんでいたという展開に痺れました。少年たちが狂っていくのは、反復する悪夢であったと。

見世物小屋、こっくりさん、霊界ラジオ、金星人、邪教・白神教、蛇神、シャンバラ、アナグラム、精神病院。これまで語られた要素を飲み込み、大きなうねりを持ってラストへ。

何が正しいのかわからなくなった広田が良子とともに、最後に向かうのは夜の水族館の地下室。ここで描かれるのが、現実か夢かわからない幻想的な出来事。具体的ではなくイメージの奔流とも受け取れるシーンなのですが圧巻です。

結局、翌朝水族館で傷つき倒れていた広田は精神病院に入れられ、良子は行方不明。はたして水族館の地下室での出来事は夢か真か、それとも広田の妄想なのか。

ラストに疑問・不満を持つ人も多いかも知れません。結局、謎は謎のままで解決していないのですから。しかも、バッドエンドと受け取れます。個人的には地下室に蛇神が閉じ込められていて、それを見た広田が発狂してしまうというような、わかりやすいラストを想像していたのですが。

ラストの地下室の話は妄想かもしれないと思うと同時に、この物語全体が狂人の妄想かもしれないとも思えました。

「『いかなる死もhlを解読しない』ってわけさ」

「でも、エイチ・エルって何だい?」

「そこまで知らないよ。完全を求めてはいけません。エイチ・エルは、そう、なにかのきれっぱしさ……」

角川スニーカー文庫スニーカー・ミステリ倶楽部について
さて、今回は角川スニーカー文庫のスニーカー・ミステリ倶楽部についてです。 ライトノベルでミステ...
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