さて、今回もちょっと昔の角川スニーカー文庫作品。富士見ファンタジア文庫『ザンヤルマの剣士』シリーズで有名な、麻生俊平『若葉色の訪問者』を読んだ感想です。
麻生 俊平(あそう しゅんぺい)
1990年の第2回ファンタジア長編小説大賞で、SF風の世界観を持った『ポートタウン・ブルース』が準入選し、同作でデビュー。現代を舞台にしたサスペンス伝奇アクション『ザンヤルマの剣士』が人気に。
『若葉色の訪問者』のあとがきに、「ヘビーなライトノベル作家」「ダークな学園モノが得意」というイメージを編集者・イラストレーターに持たれていると書かれています。
若葉色の訪問者
著者:麻生 俊平
イラスト:橋本 正枝
文庫:角川スニーカー文庫
出版社:角川書店
発売日:1999/3
親許を離れ、東北の新設校に通う宏也は、転校してきた少女、霧子を見て驚いた。彼女は、一年前に行方不明になった彼の幼なじみにそっくりだったのだ。やがて学校内や町中で謎の暴力事件が目立ちはじめる。事件の加害者は、宏也のように外部から新しくきた住人らしい。否応なく事件に巻き込まれていく彼は、その陰で人知れず行動する霧子の姿が気になりはじめる。スニーカー文庫初登場作家が贈る、新世代ジュブナイル小説!
読んだ感想
富士見ファンタジア文庫で活躍していた著者が、はじめて他文庫で書いた作品です。あらすじにあるようにライトノベルというよりも、ジュブナイル小説と呼びたくなる作品。
タイトルとプロローグの前にある文章から、鋭い方はすぐにわかると思いますが侵略モノSFです。しかも、どこか懐かしい感じのする、ジュブナイルSF。筒井康隆『緑魔の町』や眉村卓『閉ざされた時間割』と同じ匂いといいましょうか。
実家を離れ、東北の高校に通うことになった主人公・宏也。学校帰りに立ち寄った池のある公園で見かけたのは、一年前に行方不明になった幼なじみにそっくりな少女・香澄。その少女は新学期が始まった2週間後という微妙な時期に、宏也のクラスに転入してきます。その少女が転校してきた頃から、学校内や町中では動機不明の暴力事件が目立ちはじめることに。同じクラスの噂好きな少女・千秋は、香澄があやしいという。はたして彼女は何者なのか。香澄の行動を調べるうちに、宏也は事件に巻き込まれていくことになります。
地方の町で起こる出来事が、宇宙規模の対立につながっているというスケールの大きさ。著者はあとがきで、この物語を宇宙刑事の話と冗談めかして書いています。読んでみるとたしかに、メタリックでバトルスーツの宇宙刑事は登場しないものの、宇宙規模の善悪の対立に地球が巻き込まれる話です。その中で幼なじみが行方不明になった少年の葛藤、そして喪失感を乗り越える姿が描かれています。
それなりにアクションシーンはあるものの、それほど派手さはなく、少年の心の動きを丁寧に描いた物語です。恋愛要素も多々見られるのですが、そちらの部分も控えめ。このあたりがライトノベルではなく、ジュブナイル小説と感じる理由でしょう。
若干、前半部分が焦れったいのですが、それゆえに後半の展開に引き込まれます。さらにエピローグがいい余韻を残していて、緩急の使い方が上手いなぁと思います。
ただ1999年の作品としては、ちょっと古臭く感じるかもしれません。2000年代に入ると、のちにセカイ系と呼ばれる小説が登場してくることを考えると、当時としてもそう感じたのではないでしょうか。非常に良く出来た作品だと思うのですが、そのあたりが名作と呼ばれないところなんだろうなと思いました。ちょっと地味ながらも良作です。