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電撃コラボレーション『七人の時雨沢恵一』を読んで【ラノベ・アンソロジー】

さて、今回は電撃コラボレーションの『七人の時雨沢恵一』を読んだ感想です。

こちらの作品はもともと雑誌の付録です。紙版を手に入れるのは古書店やヤフオク・メルカリなどを利用する必要があります。なお、残念なことに、電子書籍化はされていません。

電撃コラボレーション

もともとは雑誌『電撃hp』『電撃文庫MAGAZINE』誌上にて行われた企画で、「電撃作家陣が同じテーマ&同じシチュレーションのもと、コラボレーション作品を描く」がメインコンセプトです。wikipediaによると、かなりの企画が開催されているようです。

その中で電撃文庫創刊15周年記念企画として、2008年に『まい・いまじね~しょん』『MW号の悲劇』『最後の鐘が鳴るとき』の3企画が文庫化されました。その後『電撃文庫MAGAZINE』では「まるごと1冊“電撃文庫”」として、5冊アンソロジー企画がそのまま付録になっています。

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七人の時雨沢恵一

「本日より一月後の四月十日までに、これから先の時雨沢を支える新シリーズのアイデアを一つ持ってくること」
時雨沢より、時雨沢各員へ。

作家、時雨沢恵一をなす者たちへ送られた新たな指令。そう、実は、あの「時雨沢恵一」は一人の人物ではなかったのだ。いま明かされる「時雨沢恵一」の正体とは!? そして、彼らはいかにして新たなアイデアを捻り出していくのか?

電撃文庫MAGAZINE2015年5月号の「まるごと1冊“電撃文庫”」付録。電子書籍化はされていません。

収録作品
資料の話 -Very Useful- / 和ヶ原聡司
フルスイング・シック・ガールズ / 木崎ちあき
時雨沢恵一になった日 -Is it a Black?- / 聴猫芝居
敵は時雨沢 / 九岡望
シグサワケイイチ / 甲田学人
とあるOLの独白 / 夏海公司
時雨沢オン・ザ・ラン / 成田良悟

読んだ感想

今回のお題は、「時雨沢恵一のひとりとなって、新シリーズのアイデアを持ってくる」というもの。時雨沢恵一の一員としての設定と物語を考えなければならない、トリッキーなお題です。

資料の話 -Very Useful- / 和ヶ原聡司

昭和39年設立の時雨沢恵一資料館の館長及び案内役を務める老人の物語。いきなり時雨沢恵一は「戦前から居た」という設定をぶち込んだものの、あとの作家はスルーしてしまったので、この設定は全く活きていません。

資料館には膨大な数の作品に活かされなかった資料があって、それらの内容が笑えます。ただ、時雨沢ファンでないとわからないネタもあって、物語としては残念な部分も。

和ヶ原 聡司(わがはら さとし) 2011年『はたらく魔王さま!』でデビュー。小説以外にも朗読劇団「team.鴨福」の脚本を手掛けています。

フルスイング・シック・ガールズ / 木崎ちあき

女子高生作家の野球部モノと見せかけて、3人の女子の友情を描いたストレートな青春モノ。時雨沢恵一関連にあまり踏み込まなかったため、内輪受け的な内容にならず、物語単独として楽しめる作品になっています。

木崎 ちあき(きさき ちあき) 2014年『狩兎町ハロウィンナイト 陽気な吸血鬼と機械仕掛けの怪物』で、ビーズログ文庫よりデビュー。2014年から始まる『博多豚骨ラーメンズ』が人気に。

時雨沢恵一になった日 -Is it a Black?- / 聴猫芝居

時雨沢恵一になることが決まった大学生の話で、「資料の話 -Very Useful-」とリンクした作品。時雨沢恵一になることの困惑を描く作品。

聴猫 芝居(きねこ しばい) 2011年『あなたの街の都市伝鬼!』でデビュー。代表作は、アニメ化もされた『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』。

敵は時雨沢 / 九岡望

人工知能作家、サイバー時雨沢を描いた作品。前3作とは方向性が全く違って、ぶっ飛んでいます。これは面白い。

九岡 望(くおか のぞむ) 2011年『エスケヱプ・スピヰド』でデビュー。

シグサワケイイチ / 甲田学人

甲田学人らしい、ちょっとグロテスクな作品。シリアルキラー? に監禁された女子高生の物語。「敵は時雨沢」とはまた違ったぶっ飛び方をしていて面白いです。

甲田 学人(こうだ がくと) 2001年『Missing 神隠しの物語』でデビュー。デビュー作以外の代表作に『断章のグリム』など。

とあるOLの独白 / 夏海公司

OL作家、時雨沢3号の物語。レディースコミックに影響を受けた、ドロドロ恋愛ネタを考えるが編集者にはNGを出されてしまう。そこで考えたのは、作家暴露話だったが……

ちょっとほのぼのした作家モノで、前の作品とのギャップでさらに楽しめます。

夏海 公司(なつみ こうじ) 2007年『葉桜が来た夏』でデビュー。代表作に『なれる!SE』など。

時雨沢オン・ザ・ラン / 成田良悟

トリは相変わらずの成田良悟。これまでの物語を回収しつつ、時雨沢作品のフレーズを引用しつつ、うまくまとめています。正式に電撃文庫から出版されたアンソロジー『最後の鐘が鳴るとき』よりは無理矢理感はなく楽しめました。

成田 良悟(なりた りょうご) 2003年『バッカーノ!』でデビュー。群像劇を得意としており『デュラララ!!』が代表作。最近では漫画の原作なども手掛けています。

まとめ

ちょっとトリッキーなお題設定で、各作者大変だったろうなというのが、素直な感想です。作家が作品を考えるというパターンが3つあって、やはりこういう形にしないと物語が作りにくいんだろうなと。

その点、九岡望「敵は時雨沢 」と甲田学人「シグサワケイイチ」の2つは、主人公を特殊な設定にしたうえで、それぞれSF的ホラー的飛躍を見せてくれて、非常に楽しめました。

成田良悟は相変わらずのまとめ役で、連作短編集としての完成度は、彼の手腕にかかっています。『最後の鐘が鳴るとき』の時は、無理やりまとめようとして冗長になっていたのですが、今回はうまくまとまっていたように思います。これはお題自体が集約する要素があったためなのかもしれません。

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