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電撃コラボレーション『最後の鐘が鳴るとき』を読んで【ラノベ・アンソロジー】

さて、今回は電撃コラボレーションの第3弾『最後の鐘が鳴るとき』を読んだ感想です。

電撃コラボレーション

もともとは雑誌『電撃hp』『電撃文庫MAGAZINE』誌上にて行われた企画で、「電撃作家陣が同じテーマ&同じシチュレーションのもと、コラボレーション作品を描く」がメインコンセプトです。wikipediaによると、かなりの企画が開催されているようです。

その中で電撃文庫創刊15周年記念企画として、2008年に『まい・いまじね~しょん』『MW号の悲劇』『最後の鐘が鳴るとき』の3企画が文庫化されました。その後『電撃文庫MAGAZINE』では「まるごと1冊“電撃文庫”」として、アンソロジー企画がそのまま付録になることもあったようです。

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最後の鐘が鳴るとき

発売日:2008年10月

廃校になることが決まったMW学園、その最後の卒業式の日。学園をめぐるさまざまな謎と怪奇が目を醒まし、事件が事件を呼び起こす。そして、最後の下校の鐘が鳴るときに『何か』が起こる―!?ラブあり、ミステリーあり、ヘンタイあり!?さらには文倉十による『狼と香辛料』学園パロディ「学園ホロたん」コラボ文庫バージョン、秘密の上遠野浩平スペシャルエッセイも緊急参戦!とことん豪華に賑やかにお届けする、コラボ文庫化第3弾。

雑誌「電撃hp SPECIAL 2005 SPRING」に掲載された企画。文庫化にあたり、文倉十「学園ホロ・MW学園編」が追加。上遠野浩平によるエッセイが、カバー裏に 掲載されています。

収録作品
学園ホロ・MW学園編 / 文倉十
ハルカワくんと人体模型 / 壁井ユカコ
カガミのムコウ / 渡瀬草一郎
M/W・二枚のメダル / 三上延

MW学園の崩壊 / 佐藤ケイ
スケッチブック / 片瀬優
天使は飛行船の夢を見るか? / 柴村仁

NICE GAY / 有沢まみず
謎のその先に / 鎌池和馬
卆形式 ~マヨイガハレルヒ~ / 成田良悟

※電子書籍化はされていません。

読んだ感想

『卒業式の今日、このMW学園は廃校になる。最後の鐘が鳴るとき、私たちは……』、今回お題が明確に書かれていません。銃声が鳴ったり、飛行船が飛んでいたりと共通の設定が書かれているのですが、これらも要素として設定されていたのかは不明です。

それぞれの作品の簡単な感想と著者の略歴を。

学園ホロ・MW学園編 / 文倉十

4pカラー作品。物語というほどの内容ではありません。売上目的という大人の事情かな。

文倉 十(あやくら じゅう) イラストレーター。2005年『狼と香辛料』のイラストを担当。

ハルカワくんと人体模型 / 壁井ユカコ

霊が乗り移った人体模型とちょっと不思議な男子・ハルカワくんの恋愛コメディ? 卒業式は別れの日という要素をしっかり描いているのが良いです。霊が乗り移った人体模型やホルマリン漬けなど、ホラー的な要素をカラッとした作品に仕上げていて楽しいです。

(かべい ゆかこ) 2003年『キーリ 死者たちは荒野に眠る』でデビュー。ライトノベルでの代表作は「キーリ」「鳥籠荘の今日も眠たい住人たち」。現在は「2.43 清陰高校男子バレー部」など、ライト文芸のジャンルでも活躍。

カガミのムコウ / 渡瀬草一郎

ミッション系学園なのに、部室棟裏になぜかある地蔵堂、そこに残る怨念、それを封じ込めた法師とオリジナル?の設定と、学校の七不思議的な要素を組み合わせたホラータッチの作品。それほど怖い話ではなく、最後は爽やかに終わっていて読後感は良いです。

渡瀬 草一郎(わたせ そういちろう) 2001年に『陰陽ノ京』でデビュー。代表作に『空ノ鐘の響く惑星で』があります。現在は小説家になろうにて、「猫神信仰研究会」名義で活動しています。

M/W・二枚のメダル / 三上延

礼拝堂の聖具室にしまわれていた2枚のメダルをめぐる、オカルトタッチな作品。MW学園の名前の由来と、それぞれメダルに書かれている「M」「W」の文字の謎を絡めつつ、アクションシーンまで盛り込んだエンタメ要素満載の作品。渡来まりん先生が魅力的です。

(みかみ えん) 2002年『ダーク・バイオレッツ』でデビュー。メディアワークス文庫で2011年に発表した『ビブリア古書堂の事件手帖』がドラマ化されるなど大ヒット。

MW学園の崩壊 / 佐藤ケイ

一番の問題作かもしれません。卒業式の2週間前、掘り出したタイムカプセルの中から真新しい死体が出てきた。遺書が見つかったということで、警察は自殺と判定。しかし、これを疑った生前に付き合いのあった4人は真相を探ろうとする……

埋められていた死体が自殺って、まず無理な設定。結局、ホラー的な理不尽な内容なのですが、著者のあとがきを読む限り、伏線を回収してもらえるということ前提で、投げっぱなしの内容に感じました。

佐藤ケイ(さとう けい) 2001年『天国に涙はいらない』でデビュー。ライトノベルの分野で意識的に「萌え」を取り上げたパイオニア的存在らしい。デビュー作以外の代表作に『私立!三十三間堂学院』。

スケッチブック / 片瀬優

16pの漫画作品。美術部の部員が、なくなった絵を探す話。なぜ絵がそこにあったのか、よくわかりませんでした。最後の成田作品を読むことで、なんとか成り立つような内容です。

天使は飛行船の夢を見るか? / 柴村仁

礼拝堂の聖具室に納められている「天使」を守るボディガードもの。学園を舞台に、銃撃戦のあるアクションモノにしたところが素晴らしい。ホラー・オカルト系の作品が続いたところに、この作品があることでバラエティ感をより感じることができました。

柴村 仁 2004年『我が家のお稲荷さま。』でデビュー。2009年の『プシュケの涙』が評判となり、その後は一般文芸の分野に進出。メディアワークス文庫で作品を多数発表しています。

NICE GAY / 有沢まみず

卒業式に告白、よくあるシチュエーションで、これぞTHE・青春という内容。カミングアウトする少年という、今でもやや扱いづらいであろう内容も、爽やかに描ききっています。ライトノベルっぽくない普通の青春小説とも受け取れますが、今回はこの作品が一番楽しめました。

有沢 まみず 2001年『インフィニティ・ゼロ 冬〜white snow』でデビュー。代表作はアニメ化もされた『いぬかみっ!』。現在はアニメの脚本などをメインにしています。

謎のその先に / 鎌池和馬

体育倉庫に放置されている金庫の鍵を開けるのに四苦八苦する話。生まれた日が2日違いながら、早生まれのため学年が違ってしまった幼なじみの関係性が面白いです。見た目は大人っぽい美女系なのに、幼い仕草をする先輩キャラというのもさらに良いです。

鎌池 和馬(かまち かずま)2004年『とある魔術の禁書目録』でデビュー。同作はアニメ化されるなど大ヒット。執筆ペースが早く、2020年7月10日に電撃文庫初となる単一作者による刊行100冊を突破したとのこと。

卆形式 ~マヨイガハレルヒ~ / 成田良悟

卆とかいて「そつ」と読むそうです。学園を舞台にした物語だけではなく、学園を主人公にした物語。伏線の回収がすごいなんて言われていたりもしますが、面白いな、すごいな、と思う反面、ここまで他の物語の回収をする必要があるのかなという疑問が湧いてきました。

他の物語は関係なしに、この学園の意識を主人公にした物語でも良かったのではなんて思いました。

成田 良悟 2003年『バッカーノ!』でデビュー。群像劇を得意としており『デュラララ!!』が代表作。最近では漫画の原作なども手掛けています。

まとめ

アンソロジーとしてこの作品を読んだのですが、舞台や時間が同じで各作品のキャラがリンクしていることから、別々の短編作品を集めたものというより、連作短編集の色合いがより強いと感じました。前作『MW号の悲劇」もそういう傾向がありましたが、こちらのほうがより作家間の連携がつよいですね。ただ、成田作品が回収にこだわりすぎているような気がして、もったいないという印象です。

前半がホラー・オカルトテイストで、後半からバラエティになる構成。漫画を挟んでの「天使は飛行船の夢を見るか?」「NICE GAY」「謎のその先に」の流れが読んでいて楽しかったです。

今回のベスト1はTHE・青春な内容の「NICE GAY」です。まっとうな青春小説でライトノベルっぽさがないところが、どうなのかという問題もありますが。読んでいるときに、THE HIGH-LOWSの「青春」という曲の「混沌と混乱と狂熱が 俺と一緒に行く」というフレーズを思い出しました。

それにしても作家陣の豪華さが目立ちます。イラスト・漫画以外はどれもハズレなしといったところでしょうか。

電子書籍化されていないのが残念です。

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