さて、今回は「90年代単巻ラノベを読む」です。実は89年の作品なんですけど、まぁ勘弁してください。
コミケ中止命令!
著者:南田 操
イラスト:さえぐさじゅん(カバーイラスト)、ものぐさずん(口絵・本文イラスト)
文庫:富士見ファンタジア文庫
出版社:富士見書房
発売日:1989/10
常春の国ノンシャラスの王太子、フィルシード・ゼクォート・トライド四世殿下は親善訪問する憧れの日本に思いを駝せていた。
──必ず、必ずコミケに行くぞ!
なんと王子はアニメファンだったのだ。同じころ、東京の片隈では、シータが所属する同人誌サークル“シリウス”がコミケに向けて最後の追いこみに入っていた。そこに届いた一通のアヤシイ手紙。
それは、ステキな出会いと冒険への招待状だった…。
王子暗殺の陰謀。悪徳同人誌の暗躍。そしてついに決戦の時。いざ征かん、コミケ会場へ!
アニメを、そして同人誌を愛するすべての人に贈る、トキメキの物語。
読んだ感想
ダイヤモンドの埋蔵量世界一を誇る、南太平洋のノンシャラス王国の王太子が日本来訪時に公務を抜け出し、アニメスタジオやアニメ関連のお店を楽しみ、最後はコミケでひと悶着という、映画「ローマの休日」の男女入れ替えパターン。
日本側で王太子と仲良くなり案内役となるのが、同人活動をする女子大生&女子高生コンビ。全体的に少女漫画チックな内容で、80年代末の同人界隈、ファンダムの熱気が伝わってくる内容です。
序章から不穏な空気も漂うのですが、最後の落とし所も面白くて、ちょっとほっこり。
ギョーカイに色々と顔が利く先輩風の人、同人誌で金儲けしている同人ゴロのような奴、確かにこんなのいるよなと思う人物もちらほら。「聖闘士星矢」や「サムライトルーパー」全盛時の漫画・アニメネタ満載で、この時代を通過している人間にとっては懐かしくもあり、楽しくもありますが、今の若い人にとっては、ここに書かれているネタのほとんどはよくわからないだろうなとも思います。
この作品が書かれたのが89年で、「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」の宮崎勤が逮捕、メディアでセンセーショナルに取り上げられ、オタクバッシングが起こった頃です。著者はあとがきで、この件にも少し触れ、そういったバッシングを受けたであろうアニメファンに向けて、鬱屈した気持ちを少しでも解消させてあげられないものか、と書かれたそうです。
この作品には当時のアニメファンの熱気や思いが詰まっていますが、それと同時に負の歴史をも背負っているのかもしれません。
なお、巻末に「南田操のファンタジアブレイク」として、アニメ「トップをねらえ!」のレビューが掲載されており、今となっては伝説的な作品が熱く語られています。